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山田は通りがかりの者を装い「いったいなんでしょうね?」と惚けて声をかけるつもりだ。警察官達が何と応え、どんな行動をとるのか見物だ。そして、その一部始終を佐藤がビデオカメラで撮影する。
あと10秒……。胸の中でカウントダウンをはじめる。9、8、7…………2、1!
ドオォォゥンッ!
激しい爆発音が深夜の山間部に響き渡る。それは、暗い夜空を震わせてしまうかのようだった。想像以上だ。大出力スピーカーの効果は抜群だ。
だが……。
3人のメンバーがそれぞれの場所から期待して見ていたが、建物からは誰も出てこない。
シーン――。
音響の名残がひいていった後は、それ以前よりも更に重い静寂が続く。沈黙は耳の奥にむしろ痛みを感じさせる。
「おかしいな……」
思わず呟く山田。カメラを持つ佐藤の方を見ると、彼はちょっと様子を見てこいよ、とでも言うように、顎で分署の建物を指す。
気が進まないが仕方ない。動画に主に登場するのは山田の役目だ。
ゆっくりと分署に近づいていく。
妙だ。何も物音がしない。人の気配を全く感じない……。
光は灯っていた。玄関も大きく開けられ、誰もが出入りできるようにしてある。
手前でゴクリと唾を飲み込み意を決すると、山田は玄関から一歩踏み込んでいく。そして「すみません」と神妙に声をあげた。
何も返事はない……。
「あのぅ……」
更に足を踏み入れる。ロビーがあり、その向こうに受付カウンターらしき場所。特に変わったところはないはずだった。だが、何かが違う。それは……。
何で、こんなに赤いんだ?
人はあまりにも日常と違う場面に出くわすと、意識が受け入れを拒否する。そして、呆然としながら脳内で情報を整理し、何を目をしたのかわかったところでようやく感情が追いついてくる。
今、山田の内部から恐怖が迫り上がってきた。
「あっ、あっ、うわぁぁっ!」
ガクガクと震えながら叫び声をあげる山田。逃げ出したいのに、腰が抜けその場に座り込んでしまった。
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