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壁やあるいは屋根までまだらに赤く染まっている。それは、血の色だった。
目の前のフロアにもあちこちに血溜まりがあった。ぶくぶくと泡立っているところも見られる。
更に、所々にまるで物のごとく棄てられているのは、警官達の死体だった。ある者は両手足があり得ない方向にひん曲がり、そしてある者は首から千切り取られたかのようになって、頭が転がっている。
「ひいぃ……っ!」
必死に立ち上がろうとするが、力が入らず何度も尻をフロアに打ちつける山田。
少し離れた場所に、拳ほどの大きさの物が落ちていた。赤黒いそれが、なぜかピクピクと動いている。
あ、あれは……?
人体見本で見たことがある。間違いない……。
心臓だ――。
くり抜かれた心臓がそこにグチャリと落ちており、まだ生の名残を見せていた。
あわぁ、あ、あ、あわゎゎ……。
声も出せず、立ち上がることもできないが、山田は這いずるようにして戻ろうとする。
そこに、佐藤と後藤がやってきた。
「どうしたんだよ?」「何があった?」
最初の山田の叫びを聞いたからか、怪訝そうな表情だった。だがそれが、山田同様室内の光景を見て、驚きと恐怖に染まる。
「う、うわぁっ!」
それぞれ恐怖の声をあげながら、外へ逃げ出す2人。
「ま、待ってくれっ!」
山田もようやく立ち上がり、後を追った。
ワンボックスカーまで時折よろけたり転んだりしながら戻る。
しかし、そのすぐ前に1人の警察官が立っていた。車の方を向いている。3人から見えるのは後ろ姿だが、背が高く逞しい背中なのがよくわかった。
「お、おまわりさんっ!」
必死に呼びかける後藤。
「大変です。あっちで人がたくさん……」
佐藤も続いて怒鳴るように言う。
だが、2人とも違和感に気づいたようだ。殺されていたのは警察官。そこに立っているのも警察官。同じ沢の北峠分署所属だとしたら、事態を知らないはずはない。かといって、他の警察署の警官が、こんなところに1人立っているのは不自然だ。
では、なぜ?
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