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警官がゆっくりと振り返った。雲が途切れ月の光がその姿を照らす。制服に包まれたガッチリとした身体。頭には徽章のついた帽子。だが、その顔は……。
紅く光る双眸が佐藤と後藤に向けられる。射すくめられたように硬直する2人。
少し後方で、山田は立ち止まった。そして、警官の異様に突き出た口から鋭い牙がのぞくのを見て背筋が凍る。
じ、人狼……?!
警官が右腕を素早く翻した。後藤の喉が裂け、血飛沫が飛び散る。声もなく倒れた後藤の身体はピクピクと痙攣していた。
隣で息を呑んだ佐藤の肩口に、警官は大きく口を開けその牙を突き立てた。まるで大型肉食獣が獲物に食らいついたような光景だ。
警官が徐に首を回す。けして小さくはない佐藤の身体が振りまわされるようになり、地面に叩きつけられる。
次に警官が顔を上げたとき、佐藤の頭が転がった。首から上を失った胴体が草むらに倒れ込んでいる。
警官は両腕をあげた。それは既に人間のものではない。鋭い爪が月明かりを受け輝く。その爪を佐藤の胴体に突き刺すようにすると、心臓を抜き取り、握りつぶした。
あっ、あっ、あわゎゎ!
またしても腰を抜かした山田は、それでも何とか尻と腕を使って後退る。その動きを赤い目で追う警官。いや、警官の格好をした異形のもの……。
ひいぃ、ひぃ、ひぃ……。
何とか立ち上がろうとして転がり、泣き叫び、失禁しながらも、必死に逃げようとする山田。
しかし、背中を向けたとたん、後頭部を串刺しにされた。見えないはずなのに、警官の爪が自分の脳みそを貫いていくイメージが浮かぶ。そして、それもすぐに消え、意識も消え、命も消えていく……。
ワオォゥ! グワゥ! グオゥオゥ!!
彼が最後に聞いたのは、闇夜を引き裂くかのごとく響く、激しい雄叫びだった。
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