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 人狼はしばし仁王立ちしていたが、くるりと向きを変え歩き出した。去って行くつもりだ。  恐ろしい相手――このまま何事もなくいなくなってくれるのが一番だが、エリカはそれでも呼び止めた。  「待ちなさいよ。あなた、いったい何者なの? これからも日の出製薬に群がる悪党連中を狙うつもり?」  一旦立ち止まる人狼。  「だとしたら、またどこかでカチ合うかもね。その時は、争わなければならないのかしら?」  エリカはジッと見つめる。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。  人狼が振り返り、その紅い目で見返してくる。彼女を射貫くような視線だ。  身構えるエリカ。  時が止まったように感じられた。  月が雲に隠れ、一瞬人狼のいる辺りが陰った。そしてそれが晴れた時、姿はなくなっていた。  え?!   慌てて探すエリカ。  ――お前と争うつもりはない。  どこかから声が響いてくる。それは、実際の声なのか、エリカの頭の中に響いてくるのか、判別がつかなかった。  これが、人狼の声?  ――だが、昂ぶってしまうと止まらない。邪魔をするなら、殺してしまうかもしれない。さっきの2人の武装した男達のように……。  それだけ聞こえると、その後はまるで静寂が押し寄せてきたかのようにシーンとした。  重く響く声だった。  もう見つけるのは無理だろう。エリカはふうっ、と息を吐く。じっとりとした汗をかいていた。自分でも気づかなかったが、久々に恐怖を感じていたようだ。  S&Wをしまうと、エリカは素早くバイクに戻り、闇の中を走り抜けていった。
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