29

1/2
前へ
/174ページ
次へ

29

 「日の出製薬が海外へ化学兵器転用可能な薬物の横流しをしているというのは、事実らしい。お得意様は、中東や南米にまでいるようだ」  スマホの向こうからトムの声。その説明を、エリカは銃の手入れをしながら聞いている。池上という公安捜査官から得た情報の裏を、彼にとってもらったのだ。  「公安の一部がそれについて調べてもいたらしいが、いつの間にか有耶無耶になったようだ。日の出製薬に協力したり、あるいは理事にまで名を連ねている政財界の大物が、そんな裏の事業にまで手を貸しているということだろう。その力は、警察内部にまで及んでいる」  「私へ依頼のあった仕事のターゲット、医療事故に関わった者達や、それをもみ消したり訴えを力尽くで潰した者達、っていうのは、おそらくそっちにも関わっているんでしょうね」  そう言って、エリカは分解して手入れした銃を、また組み立て始める。  「ああ、どんな内容であれ、悪事をするのは同じ連中だろう」  「じゃあ、そいつらを狙っている人狼の目的は何なの?」  「それはわからない。ただ、殺してまわっているのであれば、復讐か、あんたと同じように誰かに頼まれたのか?」  「沢の北峠地域で連続殺人を行ったり、警察の分署を壊滅させたのはどういうことかしら?」  「わからんよ」スマホの向こうで苦笑していそうな口調だ。「なあ、エリカ。少し様子を見てはどうだ? 残りのターゲットをその人狼とやらにとられたとしても、仕方ないだろう。そんなクリーチャー(怪物)は、想定外だ」  「そういうわけにはいかないわ。ここまできたら、何が起こっているのかわからないままじゃあ寝覚めが悪い。ターゲットを人狼さんに全部あげちゃうのも納得いかないしね」
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加