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 「それにしても、公安の捜査官と手を組むというのは考えものだろう?」  池上のことだ。トムには彼のことも伝え、身元も確認するよう依頼していた。  「手を組むわけじゃない。とりあえず今だけ情報を共有することにしたの。必要に応じて行動を共にはするけど、今後も協力したりされたり、っていう関係にもなるつもりはないわ。どうなの? 彼のことは何かわかった?」  「さすがに公安のこととなると、私でもなかなか奥まで探れない。一人一人の捜査官まで精査するのは無理だ。ただ、確かに神奈川県警の公安に池上という男はいるということと、裏部隊とは全く関係ないらしいことは見えてきたが」  「それだけわかれば充分だわ。あとは、その場その場で判断する。もし少しでも怪しい動きをしたり、敵対しようとしたら、それなりの対応はする」  場合によっては命のやり取りとなることもある。それが、エリカのような暗殺者と公安捜査官との関係だ。  「いずれにしろ、あんたに流したい仕事は他にもたくさんあるんだ。なるべく早く面倒なことが治まってほしいよ」  トムが最後は溜息まじりになりながら言った。  「悪党がたくさんいる、っていうことね。人狼が出ようが出まいが、世の中は平穏とは言えない」  「だから、我々のような者の仕事もある、っていうことさ」  トムがそう言って電話を切ると、エリカはフッと笑いながら、組み立て終えた銃を見た。そしてサッと立ち上がりざま構える。  銃口の先には、鏡に映った自分がいた。
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