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プロローグ
幹線道路とはいえ、深夜の山中は暗く、取り巻く空気さえもが重く感じられる。カーオーディオから流れてくる軽快な音楽が、窓外の闇に呑み込まれていくようだ。
雲間から満月が時折現れては消える。その明かりに照らされたときだけ、生い茂る木々の緑が闇に映えた。
普通であれば、この雰囲気にある程度の恐さを感じるだろう。少なくとも、早く不気味な地域を駆け抜け、明るく開けた場所へ行きたいと思うはずだ。
だが、ワンボックスカーに乗る3人の若い男達は、むしろテンションが高まりつつあり、興奮を抑えるのに必死だった。
「おい、そろそろ着くぞ。撮影準備は大丈夫か?」
運転しながら、山田逸太が後部座席をチラリと見る。
「オッケーだよ。ああ、ドキドキするね。初めての場所だしな」
ハンディ・ビデオカメラを得意げに持ちながら、佐藤亮二が応える。動画撮影だけならスマホで充分なのだが、今回はこれまで以上に力を入れているため高性能な物をわざわざ購入した。
「音響は?」
二列目に座るもう1人の男、後藤武に続けて声をかける。
「いつでもいいよ」
気軽な調子で後藤が応えた。彼の横には大きめのワイヤレス・スピーカー。スマホとBluetoothで繋がっている。おそらく後藤は、自分のスマホでこれから使用する音源をチェックしているところだろう。実際には、スピーカーを通じて轟音が闇に響き渡ることになっている。
彼らは、いわゆる「迷惑系YouTuber」だった――。
あらゆる場所に突撃し、大音響で爆発音を発生させる。そして「大変だ、爆発が起こったぞ」と騒ぎたて、周囲の混乱を撮影していた。
「ミサイル攻撃だ」「UFOが墜落した」「隕石だぁ」など様々なバージョンを、ある時はショッピングモール、またある時は駅前広場、買い物時の商店街などあらゆる場所で実施してきた。
そして撮影した動画をアップする。ほとんどが非難囂々である。しかしそれでいいのだ。要は、視聴回数が増えれば。そして、この3人のチーム「爆裂戦隊 山藤々」の存在が知れ渡り、有名になれさえすれば……。
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