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自分がイアドとなったことに気づいてから一番目に充一の胸の中を充たしたのは「喜び」だった。
イアドになって得た力は二つ。
【愛友家と憎友家】
・心の手帳に人物像とその人物が持つ力を書き込むことで、その人物を創造する
【有らぬ人】
・他人の認識する 繋心 充一 の存在を消す
今まで自分の内側を他人に見せることが出来なかった充一にとって、内側を見せても良いと思われる友人ができることは、正に生きる理由になるのだ。
そして更に、【有らぬ人】という力が充一の存在を他人から消し去ることによって、充一は本当の意味で完全な自由を手に入れることができる。
この事実が、今まで味わってきたどんな食べ物よりも甘く、どんな娯楽よりも素晴らしいと思えて仕方がなかった。
充一の心は喜びの声を上げ、腕を振り回して踊り狂っていた。
小説の世界に、幻である筈の、自分が絶対に存在することが出来なかった筈の世界に存在する、強大な力を持った存在。誰しもが何度も憧れる存在。
そんな存在に成れた気がした。
他人より優れた特異性を何一つ持っていないと考えている充一の心は、自分が他人より優れた人間になったという虚偽により、更に思いを飛躍させた。
なんと素晴らしい世界なのか!
なんと自分は恵まれているのか!
先程までは自分の境遇を憎んでさえいた筈が、そんなことは遠い昔のことだと言うように、得た力に酔いしれていた。
充一はこの日より選択を迫られる。
イアドであることを否定するのか。
イアドであることを肯定するのか。
それがイアドと呼ばれることの、唯一の代償なのだから。
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