壺ニラ800円

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 それを聞いた僕は眉をひそめた。こんなニラ漬けなんかで金を取るのか。  いや、「ニラ漬けなんか」などと言ってしまったが、確かにものすごく美味しそうではある。  しかし、こういう卓上の付け合わせはサービスなのが普通だろう。 「えっ、なに。金取るの」 「へぇ、そりゃ飲食店ですからねぇ」  それはそうだが壺ニラ食べ放題800円を、ラーメン900円に上乗せすると、2000円近い。  庶民の食べ物・ラーメンでそれは高すぎやしないか。 「あぁ、あとね、後ろにお水ありますんで。  それは飲み放題で500円、1杯なら100円ですわ」  おやじが指さすままにウォーターサーバーの方を向いた僕は、続くその言葉にさらに度肝を抜かれた。  首にかけたタオルで顎に(したた)る汗を拭くおやじは、なんでもないような顔をしている。 「まじかよ。お客様は神様だろ」  思わず口をついて出た僕の一言に、おやじは急に不機嫌を(あら)わにした。  この世界のタブーに触れてしまったかのように激昂し、そのボルテージはみるみる上がっていく。 「なに言ってんだ!   この店は俺がつくった店だ。  つまり、店主の俺がここでは神様だ」  突然爆発した目の前の人間の怒りに、僕の負けん気も遅れて火が付いた。「嫌なら出て行け」と怒鳴るおやじに、「あぁ、そうさせてもらうよ! こんな店、こっちから願い下げだ」と売り言葉に買い言葉で、僕は店を飛び出した。  ひどいラーメン屋もあったもんだ。あれじゃ固定客なんか付かないに違いない。すっかり気を悪くした僕だったが、気を取り直して次の店を探すことにする。  少し気持ちの高ぶりが冷めてきたころ、目の前に見えてきたのは寿司屋だった。  回転寿司ではないようだが、店の前に置かれた本日のお品書きを見ると、そこまで高級な価格帯でもないらしい。
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