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結局、飲まず食わずのままで店を出てきてしまった。
和服をアレンジした制服に身を包んだ店員は、申し訳なさそうな顔つきをしてはいたが、自分たちの主張に問題はないと確信している様子だった。
腹の奥からはグーグーを通り越し、ゴゴゴゴという音が聞こえてくる。寿司1貫でも食べてから啖呵を切ればよかった。
だが醤油がないのでは、1貫だって食べた気にはならないだろう。悔しいことに、あの寿司屋の言う通り、醤油は寿司に必須なのだ。
グキュウゥと変な音を奏で始めた腹を持て余して、哀しいやら情けないやら。
そんななか僕は昼間、社内で起きた部下との厄介な応酬を思い出していた。
「悪いがこの資料、今日中に作ってくれ。取引先の急ぎなんだ」
「えー、課長。そういうことは早めに言ってくださいよ。
ってこれ、今日定時までには絶対に仕上がらない内容じゃないすか。
定時超えるなら、別途追加で手当てを要求します」
「あぁ、もちろん残業代は出るよ。時間内の割増しで。
うちはブラック企業じゃないからな」
「割増しなんかじゃ、アフターファイブの価値に見合わないす。
日中はみんな仕事してて友達も彼女もあいてないけど、夜はあいつらと一緒
に過ごせる大切な時間っすよ。
昼間+アルファぐらいで考えてもらったら困ります。
時間内の倍額、いや、3倍はもらわないと釣り合わないかな」
「なに馬鹿なことを言ってるんだ。
残業代の規定は労働基準法で決まってるんだよ」
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