壺ニラ800円

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 結局、飲まず食わずのままで店を出てきてしまった。  和服をアレンジした制服に身を包んだ店員は、申し訳なさそうな顔つきをしてはいたが、自分たちの主張に問題はないと確信している様子だった。  腹の奥からはグーグーを通り越し、ゴゴゴゴという音が聞こえてくる。寿司1貫でも食べてから啖呵を切ればよかった。  だが醤油がないのでは、1貫だって食べた気にはならないだろう。悔しいことに、あの寿司屋の言う通り、醤油は寿司に必須なのだ。  グキュウゥと変な音を奏で始めた腹を持て余して、哀しいやら情けないやら。  そんななか僕は昼間、社内で起きた部下との厄介な応酬を思い出していた。 「悪いがこの資料、今日中に作ってくれ。取引先の急ぎなんだ」 「えー、課長。そういうことは早めに言ってくださいよ。  ってこれ、今日定時までには絶対に仕上がらない内容じゃないすか。  定時超えるなら、別途追加で手当てを要求します」 「あぁ、もちろん残業代は出るよ。時間内の割増しで。  うちはブラック企業じゃないからな」 「割増しなんかじゃ、アフターファイブの価値に見合わないす。  日中はみんな仕事してて友達も彼女もあいてないけど、夜はあいつらと一緒  に過ごせる大切な時間っすよ。  昼間+アルファぐらいで考えてもらったら困ります。  時間内の倍額、いや、3倍はもらわないと釣り合わないかな」 「なに馬鹿なことを言ってるんだ。  残業代の規定は労働基準法で決まってるんだよ」
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