不時着

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不時着

つっ… 何? 体中が痛い。 こんなの初めて。 私は、痛みに耐えつつ、うっすらと目を開ける。 そして、すぐ前のシートの背もたれを目にして、ようやくここが飛行機の中だということを思い出した。 天井からぶら下がった酸素マスク。 機内は、全ての灯りが消えていて、薄暗い。 その中で、ゆっくりと左に目をやると、通路を挟んだ向こう側には、ぐったりと力なく隣のシートに倒れ込むサラリーマン風の男性。その足元には、赤黒い水たまりができていた。 これ、もしかして、亡くなってるの⁉︎ 痛み以外の現実感が全くなかった私だけど、じわじわと恐怖に包まれていく。 これ、大変な事故なんじゃ…… 私は、右側の窓から外を確認する。 海上を飛んでいたはずなのに、そこはまるで砂漠のような荒野。 ここ、どこ? イギリスでもフランスでも北欧のどこかでもなさそうな広大な大地。 その時、座席後方から、男性の声が聞こえた。 「誰か生きている人はいませんか⁉︎」 あ、私の他にも生存者がいる! 私は、返事をしようとするけれど、声がかすれてうまく出ない。 「は…い、ここ…に、います」 私がようやくそれだけ絞り出すと、すぐに返事があった。 「すぐに行きます」 現れたのは、若い日本人の男性。 「大丈夫ですか?  どこか痛いところはありますか?」 そう尋ねる男性の左足の膝下には、棒状に丸めた新聞紙が縛り付けられている。 「それ……」 私の視線をたどった彼は、かすかに苦笑いを浮かべた。 「多分、骨折。でも、応急処置はしたから大丈夫。それより、君は? どこか怪我してない?」 自分が骨折してるのに、他の人を思いやれるなんて、なんて優しい人なんだろう。 「大丈夫です。体中、鈍い痛みはありますが」 骨折とか、出血とか、そんな激しい痛みは感じない。 「それなら、良かった。多分、衝撃で全身を打撲してるとは思うけど。もし他に痛いところがあったら、教えて」 そう言うと、彼は笑顔を見せる。 「じゃあ、俺は、他に生存者がいないか、見てくるから、少し休んでて」 彼は、痛むに違いない足を引きずりつつ、座席を支えにさらに前へと行こうとする。 「あの、私が! だから、休んでてください」 怪我をしている彼が動くより、私が動いた方がいい。 そう思って声を掛けるけれど… 「俺、これでも医者の卵なんだ。国試に受かったばかりで、全然経験なんてないけど」 彼は、笑顔で答えると、一席ずつ、安否を確認しつつ、前に進んでいく。 私は、慌ててシートベルトを外し、彼を追った。 2人で全席、コックピットまで確認したけれど、私たちの他に生存者はいなかった。
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