新たな危険

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新たな危険

骨折してる彼は、白石 悠(しらいし ゆう)さん。 医学部の6年生で卒業旅行の帰りらしい。 私は、平岡 由良(ひらおか ゆら)高校3年生。 この留学を終えたら、大学へ進学することが決まっている。 私たちは、コックピットから、無線で救援を呼べないかといろいろ試してはみたが、どうもうまくいかない。 けれど、離陸して、1時間も飛んでいないはず。 とすれば、ここはヨーロッパのどこかには違いない。 とりあえず、外に出てみようということになり、私たちは、前方の扉のレバーを回してみる。 飛行機の扉を自分で開ける日が来るなんて、思ってもみなかった。 骨折してる彼に代わって、ゆっくりと扉を開けると、扉の外側の足元に、こちらを見上げる大きな人の顔を見つけた。 「えっ⁉︎」 事態がうまく飲み込めないまま、私は後ずさった。 だって、ここ飛行機の中。 空港でも、タラップで長い階段を降りないと地面に辿り着かない。 そんな高さのところに顔があるって、身長、何センチ⁉︎ ううん、もう、何メートルっていう単位よね⁉︎ 意味が分からない。 「おい、中に何かいるぞ!」 「何かって?」 外で会話する声が聞こえる。 けれど、何か違和感を感じる。 「こっち!」 白石さんに腕を引かれて、キャビンアテンダントが利用する小さなスペースへと隠れる。 「あれ、何語?」 白石さんに尋ねられて、初めて違和感の正体に気づいた。 英語でも日本語でもないのに、なぜか内容が分かる。 なんで⁉︎ 「分かりません」 私は首を横に振る。 すると外からまた違う声が聞こえた。 「おいで。ほら、いい子だから」 まるで子猫でも呼ぶかのような優しい声。 けれど、また別の声が、 「振ってみますか? それとも壊します?」 と、ゾッとするようなことを言う。 これじゃ、まるで私たち、昆虫採集の少年から隠れる虫のようだ。 そう思っていると、機体が大きく揺れ始めた。 必死に手近な棚にしがみついたけれど、今にも振り落とされそう。 このままじゃ、ダメだ。 このまま揺すられたら、打撲じゃ済まない。 「白石さん、外に出ませんか?」 白石さんは、目を見開いて私を凝視する。 「何をされるか分からないぞ」 「そうですけど、このままでも、何をされるか分かりません。だったら、さらに怪我をする前に出た方がいいと思います」 私がそう言うと、白石さんはすこし考えてうなずいた。 「分かった!  ただ、この揺れが収まらないことには……」
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