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「ごめんごめん。皆で楽しんで来てよ」
「残念だな、俺の美声を聞かせてやりたかったのに……」
「今度行く時の楽しみにしてる」
馴れ馴れしく笛吹の肩を組む黒澤に、笛吹は嫌な顔一つ浮かべずに応じる。相次いで、クラスメイト達は、笛吹に別れの言葉を掛けていく。さすがは蓮見学院の人気者である笛吹実泰だ。
「ひとまず会計して外に出ましょ」
混沌としつつある場を締めるように三宅が言うと、反論する者もなく、それぞれファミレスを出る準備を始めた。
私も自分の荷物をまとめ、帰り支度をする。普段となんら変わらない勉強道具は、少しだけ重く感じた。
そして、ドリンクバー代である三百円を会計してくれる椎谷一人に預け、他の人はファミレスの外へ出ることになった。
約三時間ぶりの外はもう陽が沈んでいるせいで、ぴりぴりと痛覚を刺激するような冷気が肌に襲い掛かる。けれど、その寒気が勉強終わりの頭を覚醒してくれるようで、悪い気はしなかった。
目を閉じて、全身で冬の空気を感じていると、
「周防さん、今日はお疲れ様!」
誰かの手が私の肩に触れた。振り向くと、私が先ほど勉強を教えていた田島がいた。
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