乗組員C

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乗組員C

謎の船長、ネモはネッド少年の父親と何か関係あるのだろうか。少年は考え込んだが、確固たる証拠は無かった。しばらくネモ船長のそばにいたら何か分かるだろうと、コンセイユを抱きしめ導かれるままに食堂をあとにする。 少年は多くの船室を案内された。見たこともない金属の壁で囲まれた食材の貯蔵庫や、図書室。何処から手に入れたか分からない金や宝石の金庫やエンジンルームなど、ネモ船長は秘密にしてもおかしくない場所にも少年を招き入れたのだ。エンジンルームの中はこの世のものではないと思うほど、最先端技術で溢れていた。電燈よりも眩しく光る壁、蒸気機関ではなく、電気で回転するタービンにネッド少年が目を輝かせると、突如警笛のような音が部屋に鳴り響いた。 「不調のようだな。少年は…」 ネモ船長が何かを言いかけた瞬間、今度は明かりが消え、驚いたコンセイユが腕の中から飛び出した! 「コンセイユ!」 暗闇の中、コンセイユを探し出そうと手を伸ばすと、船長が少年の肩を掴む。 「この部屋で軽率な行動は慎むことだ、ネッド少年」 でも!と少年が焦燥感に駆られたそのとき、部屋の明かりが点いた。ネッド少年の帽子が頭上のタービンの回転に巻き込まれ、吹き飛ばされ、鋼鉄の床にポトリと落ちる。少しでも立つ位置を間違えていれば自分もこうなっていたのだろう。ああ、コンセイユは無事だろうか!恐怖で身を震わせながら帽子を拾い上げた。 「少年」 螺旋階段を降りていたネモ船長が手招きをする。転がり落ちるかのように階段を降りると、そこにはコンセイユを抱きかかえた、先ほど食堂で出会った白銀の青年が立っていた。彼はコンセイユを少年に渡すと、同じように微笑む。 「ネモ船長、彼は食堂にいた方ですよね?ウェイターであり、技師なのですか?」 船長は奇妙な言語を唱えると、青年は頷いた。 「彼はノーチラス号の乗組員だ」 「ノーチラス号の乗組員は何でも(こな)せるのですか?素晴らしいですね!」 皮肉を込めて言い放った言葉に船長は顔をしかめる。 「ぴい!」 コンセイユが少年の口を塞ぐようにヒレをバタつかせると、乗組員が細い指で咎めた。何かを伝えようと口を開いた青年は、その場でしばらく考え込み光る壁に左手をついた。すると、エンテリガ語の文字が彼の左手から溢れるように壁を伝う。神秘的な光景に見惚れていると、乗組員が必死に唇を動かす。 『少年、読めますか?読めたら返事をしてください』 壁にはこう書かれている。 「読めますよ。凄いですね、この技術は!」 目を輝かせ、ネッド少年も壁に左手をつく。しかし、何も起こらない。コンセイユも真似してヒレを壁につけるが、何も起こらない。 「彼にしか使えないのだ。この技術はノーチラス号が自ら作り上げた物の一つになる」 潜水艦が、船が自ら作り上げる?物の例えがおかしいとは思ったが、質問はしなかった。なんせこの船は不思議なことだらけなのだから。 『私はC(セー)。乗組員Cと呼んでください』 Cは少年を見つめ、また微笑んだ。中性的な彼に懐かしさを感じ、なんだか照れ臭くなったネッド少年はコンセイユを強く抱きしめ、はいと頷くとにっこり笑顔を見せた。この人は悪い人じゃなさそうだ。まともな人間はもしかしたら彼だけかもしれない。 インテガ海の底に閉じ込められたネッド少年に、新たな希望ができた。
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