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2 濃いを探求する話
ベッドで目を覚ます。
オフの自分がオンの自分から意識を返却されたらしく、自分を見ているような――もしくは幽体離脱のような感覚が収まっていた。
……いやいやいや、どうしてベッドで寝ているんだ? 短編はどうなったんだ? 時間は何時なんだ?
ピリリリリリリ!
スマホが寝起きにはキツイぐらいの音量で、存在と着信を主張している。案の定、担当からである。
「……お、おはようございます」
「おはよう! あれ、もしかして寝起きかな?」
「ええ、まあ……その、すみま――」
「いやあ、6時半に送られてきた短編、読ませてもらったよ!」
とても不機嫌に聞こえない担当の声に、こっちは戸惑って何も言えなくなってしまう。
「クレイジーでルナティック、見事にこちらの要望に応えていただいて、私はとてもうれしい! 決手(きまりては)鯖折(さばおり)先生の真骨頂を存分に感じ取ったよ!」
「あ、はい」
「それじゃ、私はこれから出勤の準備をするので、これで!」
一方的に電話が終わった。嫌味でもなんでもなく、勤勉で忙しい人だ。
どうやら間に合ったらしい。しかもメールにファイルを添付して送ったのか。まったく、身に覚えがない。
パソコンを立ち上げてメーラーを開く。送った文面はかなりまともだ。それより、短編小説のタイトルが気になる。
『ドスコイ!~ドストレートに濃いを略して何が悪いんですか!?~』
ファイルを展開する。一行目から普通の人なら頭の痛くなる文字列のオンパレードだ。
ひたすら濃い目が好きな主人公が、食べ物に調味料をかけまくったり、酒は割らずに飲んだり、ニオイの強めのあらゆるものを嗅ぎまくったり、キャラの濃い人と超人バトルをしたり……。とにかく、濃いを探求するらしく、お眼鏡に適う濃さに出逢えば「ドスコイ!」と連呼しながら、周囲の人間を相撲技を繰り出しまくるというヤベー奴が暴れ回る話だ。
酒でも飲めば書けるが、シラフでは絶対書けない。よくこんなものを書けたな……。
そういえば。
右腕の肘窩(ちゅうか)を見る。内出血が見られるが、そこまで生活に影響はない。
……また、ネタに詰まったらやってみようかな。担当のウケがいいのは久々だったし、機嫌が良ければ直しも少なくてすみそうだし。
まったく、『肘窩(ちゅうか)覚醒』様々だわー。
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