7人が本棚に入れています
本棚に追加
「私はね、紅葉ちゃんの一途な思いってとてもきれいだと思う」
葉月は続けた。
「でもね『袖引き煙草に押し付け茶』って言う言葉があるの。お別れの時にお客さんの袖を引いて煙草やお茶でおもてなししても迷惑って言うところから、好意がかえった迷惑になることもあるって意味なんだよ」
紅葉はすでに泣き出していた。
自分でも心のどこかでことはわかっていたこと。
だが、肯定したくなかったこと。
「確かに1度裏切られて心配になっちゃうのもわかるよ。でも、パートナーを信頼するのも恋だと私は思うよ」
葉月は紅葉の手を握った。
「えっ」
紅葉は驚いた。
葉月の手は温かかった。
葉月の心は温かかった。
「温度は高すぎるとだめなんだよ。お茶と同じで苦みや渋みが出すぎ過ぎちゃうんだね」
最後までお茶のことを持ち出す葉月に紅葉は笑った。
そのほおを流れる涙は最初の悲しさの涙からうれしさの涙に変わっていた。
紅葉はもう1度かぶせ茶を飲んだ。
「葉月、本当にありがとう。ありがとう・・・・・・」
紅葉の顔は涙と笑顔が入り交じっていた。
ただその顔はとてもきれいだった。
最初のコメントを投稿しよう!