7人が本棚に入れています
本棚に追加
登校中
葉月がいつもの通学路を歩いている知り合いの声が聞こえてきた。
「おー、葉月ちゃんじゃないか。おはよう」
「おはようございます、時雨さん」
声の方を向くと初老の男性が家の縁側から声が聞こえてきた。
葉月は時雨の元まで歩いて行った。
「まだ時間は大丈夫かね」
「はい。少し早めに家を出たので大丈夫です」
「そうかそうか。葉月ちゃんは偉いの」
時雨は頷きながら優しい顔で言った。
「そんなことないですよ」
葉月は少し照れながら返した。
「時雨さん、お茶ですか?」
「そうじゃよ。葉月ちゃんのところのお茶じゃ。『朝茶に別れるな』というからの。毎日の日課じゃ」
『朝茶に別れるな』とは朝に飲むお茶は1日の災いから守ってくれるため毎朝飲むべきだ。と言う意味でる。
「うれしいです。私も毎朝お茶を飲んでます」
「ほほほ。それで葉月ちゃんは元気なんじゃの」
「そんな、時雨さんの方がお元気ですよ」
「はは、ありがとう。優しいの」
ほのぼのとした会話を2人は優しい顔でしていた。
「あっそう言えば、そろそろうちの新茶がなくなりそうなんですよ」
「おー、そうかい。それじゃあ買いに行かねばの」
「今日ならお母さんがいますよ」
「ああ、美和子さんがおるのか。それなら今日行こうかの。ついでに少し話したいしの」
「お母さんも時雨さんと話せたら喜びますよ」
「それはわしもうれしいの。教えてくれてありがとう」
「いえいえ。こちらこそいつもありがとうございます」
2人は頭を下げ合った。
「それでは、時雨さん。私はこれで。またゆっくり話しましょう」
そう言うと葉月は時雨の家の敷地から出ようとした。
「おおそうじゃ、葉月ちゃん」
それを時雨が呼び止めた。
「はい?」
葉月は振り返りながら返事をした。
「何事もやり過ぎは禁物じゃよ。『袖引き煙草に押し付け茶』じゃよ」
時雨は笑顔で言った。
「行ってらっしゃい、葉月ちゃん」
そして手を振って葉月を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!