お酒飲めないけど

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お酒飲めないけど

「将来、自分の店を持つために飲食業の経験をしたいんですよね」  アルバイトの面接でそういった類の話をしたならば、即採用となり、十一月の暮れ、俺は居酒屋スタッフ生活をスタートさせた。だが、世の中は新型コロナウィルスに踊らされ、居酒屋は閑古鳥。先輩スタッフとのおしゃべりに時間は浪費される。  ゲストが来ない限り、仕事は少ない。掃除に整理にお酒のボトルをダスターで拭く。時短営業のせいもあってか、将来の夢のためにアルバイト代を貯金にまわすつもりだったが、給料自体も微々たるもの。  コロナ禍の影響で希望を胸に抱いて進学した大学も休校からのオンライン授業で、何のために大学に来たのかも今では疑問になる。その中、飲食店を開きたいという夢を見つけたのにも関わらずコロナ禍がまた俺の邪魔をする。 「忘年会新年会の時季が稼ぎ時なんだけどさぁ」  先輩スタッフはそんな愚痴をこぼす。先輩スタッフの話によれば春先に何人か学生バイトを採用したようだが、その学生バイトたちもコロナ禍により解雇されたそうだ。俺の首もいつ飛ぶか分かったものじゃない。 「まぁ木下くんを採用したのは、店長が学ばせてやりたいって気持ちがあったからだから」  ありがたい言葉がこの状態では何を学ぶのだろう。そう思った時点で入口が開く。 「いらっしゃいませー!!」  先輩スタッフは真っ先に声をあげて、俺も続く。
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