2人が本棚に入れています
本棚に追加
小高い丘の上でぼくと彼女は腰掛けるのに丁度いい石の上で2人、朝日が浸み渡っていく街並みを見下ろしていた。
「そろそろ目が覚める頃だと思う?」
ぼくたちの後ろで眠っている彼が起きるまであと少し。
「そうだね。あと少し眠ったら目が覚める頃かな」
ぼくは両腕をうーんと空に向け、これでもかというくらい伸びをしながら彼女の質問に答える。
「ねぇ、そろそろ引っ越しだと思う?」
ぼくと彼女と彼が長い旅の果てにこの地を選び、ここに住み始めてから長い時が過ぎた。
「そうかもしれないね」
ぼくは伸ばした手を下ろし、眼下に広がる家々を見ながらそう答えた。
朝夕の冷え込みを感じるようになり、山々が赤や黄色の衣をまといはじめたあの日、眠りから目覚めた彼の「そろそろ行こうか」という一声でぼくたち3人は住み慣れた前の家を引き払うことになった。
今と同じような小高い山の頂上近くにあった前の家では、毎日動物たちと遊ぶことが出来たし、話し相手に困ることだってなかった。季節の節目には山里からたくさんの人が来て、みんなワイワイとにぎやかに過ごしていた。
季節が何度もめぐったあの日、ふもとの町に国王の使者が訪れた。
あの日から山の動物たちは、山を登ってくる武装した人間におびえていつもびくびくするようになり、ぼくたちと遊ぶ時間はめっきり減ってしまった。遊んでいる時でも草むらに人の気配がする度に、楽しい空気は一瞬にして殺伐とした冷たい空気に変わってしまう。
ぼくたちの家を訪れる人も月に数人あるかないかまで減り、山に来る人は今までとは違い険しい顔をしながら動物を追いかけ、傷を負わせていくばかり。季節の節目でさえ人が集まることがなくなり、家はどんどんと寂しさに浸食されていった。
それに合わせるように彼の眠る時間は日に日に長くなり、1日のうちで起きている時間が2時間を切るくらいになったころ、彼は目覚めと同時に「そろそろいこうか」とつぶやいた。
最初のコメントを投稿しよう!