1章 みんな集まれ~♪

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「うわぁ、すごい豪華でし」  マンションの中に足を踏み入れると、おハナは天を仰いで感嘆の声を漏らしました。  大理石をふんだんに使った豪奢なエントランスは、8階まで全て吹き抜けの構造になっていて、解放感抜群だったのです。 「3階から滝が落ちてきて、川になって、噴水までこしらえてて……こら、えらいがんばりはったなぁ」  おハナの傍らでは珠姐ぇもその豪華さに目を見張っていました。  エントランスを囲むようにして二階へ半月型の茶色い階段が作られていて、これが木の枝のように見えます。エントランス自身が大きな森を表しているのかもしれません。 「建物の中に川を作っちゃうなんて、バブル期の煌びやかなイメージそのままビエね。私も初めて見た時はびっくりしたビエ」  二匹を中まで案内してくれたアマビエのいっちぃがフロントを指し示しました。 「あそこで受付するビエ」  こんなところだけはバブル期の頃よりも機械化が進んでいて、フロントには受付機が並んでいましたので、二匹はチェックインの入力をしました。  その間も奥のカフェコーナーからはグランドピアノの音色が響いています。噴水の陰になっていてよく見えませんでしたが、誰かが生演奏を披露しているよう。きっとスタッフ参加のどうぶつさんなのでしょう。 「あのどうぶつさんもスタッフさんでしか?」  おハナは大きなカメラで熱心に噴水を撮影しているトカゲさんを指さしました。 「違うビエ。あれはただのカメラ大好きっ子ビエ。彼はここに一番に到着してからずっと撮影してるビエ」 「あれって建さんやんか。おーい、建さーん!」  おハナは面識のないどうぶつさんでしたが、どうやら珠姐ぇは知り合いのようです。  珠姐ぇが駆けつけると、床に転がって見上げるように噴水を撮影していたトカゲさんがひょっこり起き上がりました。 「おう?! 珠姐ぇでパシャ?!」 「そやで。うっくんフォルムやから分かりやすいやろ」  珠姐ぇはやっぱりくるっと一回転して、ポーズを決めます。  そんな瞬間を建さんはすかさずパシャリ。  写真家である建さんはシャッターチャンスを逃がしません。 「紹介するわ、こっちがおハナで、こっちがいっちぃ」 「初めましてでし」 「建でパシャ。ご挨拶代わりにまず一枚」  そう言うと、健さんは一眼レフの大きなカメラを3匹に向けました。 「イベント参加記念の一枚でパシャ」  その写真というのが……。 「うわぁ、なんや知らんけど、うちが一段とべっぴんさんになっとる!」 「撮る人の腕でこんなに違うんでビエね」 「素敵でし!」  乙女な三匹は撮影されたばかりのデジタル映像を覗き込み、大はしゃぎです。 「そんじゃ、自分は向こうのピアニストさんも撮影してくるでパシャ」  ごきげんよう、と手を振って、トカゲさんは一眼レフカメラ片手に去って行ってしまいました。 「明るい人でし」 「あれは関西人のノリやな」  うちと同じ匂いがするでぇ、と珠姐ぇが語っていたら「……やっぱり生粋の関西人は違うシマ」という湿っぽい声がどこからか響いてきました。 「え?」  三匹できょろきょろ見回してみると、いました。フロント前のふかふかソファに埋もれるようにシマリスさんが座っているではありませんか。  シマリスさんはみんなと目が合っても立ち上がる気配もなく、喉の奥でくっくっく、と引き笑いを漏らすだけ。何かを食べているのか、もしくは頬袋に溜め込んでいるのか、シマリスさんの左右の頬は異様に膨らんでいます。 「えーっと、カナカナ……でし?」  シマリスさんの傍らにラグビーボールくらいの大きさをしたお薬のカプセルが置いてあり、そのおかげでおハナは持ち主の素性に気付いたのです。  どうやら大阪で暮らしている薬屋のカナカナらしいとは分かりましたが、しかし三匹ともそれ以上前には進めませんでした。シマリスさんの醸し出している空気が、何とも言えない淀んだ雰囲気に満ち溢れていたからです。 「くっくっく、カナカナの実態はこんなもんシマ」  怯える三匹の気配を察したのか、シマリスさんは短い足でぴょこんとソファから飛び降りました。 「エブリスタはネット上での付き合いだから、素性も性格も、本当は誰も知らないシマ。それなのにこうやって顔を合わせてしまったら、どんなことになるんだか……くっくっく」  意味深な笑い方を残してカナカナはどこかへ去っていきました。  カナカナはエブリスタの中ではいつも胸キュン恋愛ものとか投稿していたはず。それなのに、まさか本人がこれほど不気味なシマリスさんだとは……。  三匹とも呆気に取られてしまって、二の句を告げられません。 「……なんか、頬にブラックなもんを溜め込んではったなぁ」  ぷっくりと膨らんだシマリスさんの頬への疑問も否応なしに増すところですが、そんな微妙な空気を吹き飛ばす勢いで、三匹の頭上から突如ハヤブサさんが舞い降りてきました。 「いぇーい! みんなに会えて嬉しいっキュ!!」 「いっかでし!」  元気いっぱいのハヤブサさんの登場に、三匹は一斉に歓声を上げました。
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