1章 みんな集まれ~♪

8/8
前へ
/43ページ
次へ
「皆さん、お飲み物もいきわたりましたでスタ?」  頃合いを見計らって、エブスターがグランドピアノのすぐ脇、どうぶつさんたちより一段高い場所に立ちました。 「えーっと、改めまして、本日はエブリスタ会員の皆様にはご足労いただきましてありがとうございますでスタ」 「ご足労って言うほどの苦労してへんけどな」  一番前に座っていた珠姐ぇがいきなり笑い飛ばします。  まさか挨拶の最中でそんな野次が飛ぶと思っていなかったらしいエブスターは一瞬固まりましたが、すぐに気を取り直して自己紹介を始めました。 「自分、エブリスタの運営会社EvRYの社員で、徳本というスタ。でもこの格好だし、皆さんもペンネームだし、今日はエブスターと呼んでもらいたいスタ」 「はーい」  陽気な珠姐ぇは大きな声で返事をし、それにあわせていっかちゃんもジャーンとギターをかき鳴らしました。  エブスターは笑顔で「盛り上げていただき、ありがとうでスタ」と言いつつ、コホンと咳ばらいを一つ。 「皆さんには『あつまれエブ友の森』プロジェクトのモニターとしてお集まりいただきましたスタ。これは昨今のコロナ禍で会員様同士の交流の場が損なわれ、このままではいけないと危機感を抱いた自分が進めているプロジェクトでスタ」 「なんや、自分、タヌキな顔して真面目な話もするんやな」  珠姐ぇのツッコミに、エブスターはもういちいちリアクションを取っていたら話が進まないと判断したのか、ウサギさんとは目を合わさないようにして説明を続けました。 「このプロジェクトは先日、テレビで越後湯沢のリゾートマンションの話をしていたことにヒントを貰いましたでスタ。越後湯沢は東京から上越新幹線一本で来られるという利便性から、スキーリゾート開発が進み、バブル期には多くのリゾートマンション、ホテルが建設されたでスタ。でもバブルがはじけた後は買い手がつかなくなって値崩れして、今では負の遺産として地元でも持て余す存在になっているスタ」 「うん……ハナもその番組は観たけど、負けるという字を書いて、負動産なんて揶揄されてるらしいでし」  おハナも表情を曇らせ、ぼそりと漏らしました。  この町にはバブル期の狂乱が、いまだ暗い影を落としているという事です。  住んでいる人がほとんどいないのに、無駄に豪華なハコがいくつも立ち並んでいるという状況……もちろんこのままでいいはずがありません。 「ところが、自分が観たテレビ番組ではそのバブル期の豪華な建物を活用して、コロナ禍のリモートワークに対応していくっていう特集をやっていたスタ。どうせリモートワークなら、どこから参加しても同じスタ。だからリモートワークする人を湯沢に呼び込もうっていう話だったスタ。自分は、その話を知って、これはエブリスタの会員の皆様にも応用できると気付いたスタ」  番組内ではインターネットが繋がるならば、越後湯沢は温泉が湧いているし、東京へのアクセスも良いし、自然豊かだし、と抜群のリモートワーク環境であることを宣伝していたそうです。  そしてエブスターもその特色に惹かれた一人……じゃなかった、一匹だったのです。 47f24981-67ec-4def-84bf-88512d7e38a9 「自分はこの『フォレストヴィラ・ゆざわ』を、ゆくゆくはエブリスタ会員様専用のリゾートマンションとして運営したいんでスタ。創作に励むには会員様同士の交流も大切でスタ。ここはきっと、新しいアイデアを産む、皆さんの創作意欲を膨らます場になってくれると信じているでスタ」 「うんうん。コロナ対策に、いっちぃもいてくれてるから、こうやって集まっても安心だニャ」 「ビエぇ~♪」  アキたんといっちぃが顔を見合わせて微笑み合います。  その後ろでカナカナが、くっくっく、と不気味な一人笑いを漏らしているのは置いておくとして……。 「今日はモニターの皆さんに『フォレストヴィラ・ゆざわ』の良さを満喫してもらう為のイベントでスタ。存分に楽しんで、そしてこの施設の良さを他のエブリスタ会員様たちにも広めて欲しいでスタ」  エブスターの言葉に千さんが、うむ、と重々しく頷き、みんなも大きな拍手を送りました。  そんな様子も、建さんはしっかりカメラにおさめています。 「いい感じに撮れたでパシャ。この写真も後で掲示板にアップしてもらったら、ここの雰囲気が伝わるでパシャ」  建さんはさっそく自分の撮った写真を提供しに、演説が終わったばかりのエブスターの元へ駆け寄っていました。 「建さん、ええ仕事しはるなぁ」  その写真を一緒になって覗き込んでいた珠姐ぇは建さんの働きぶりに感心すると共に、白くて長い耳をぴょこぴょこ動かし、このカメラで撮るとええ写真が撮れるんやなぁ、と興味津々の様子でした。 191afd73-b6a6-40c7-8ee1-8d79975f0992
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加