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じゃない方 玖絽視点
僕は一卵性の双子の兄だ。
弟は明るくて社交的で、何でも器用にこなしてしまう。
いつもにこにこしていて誰からも好かれる愛されキャラだ。
僕はというと、元は同じはずなのにどこで違ってしまったのか、人見知りで暗くてどんくさい。
慣れない人とは緊張してうまくしゃべる事ができない。
いつの頃からか僕は周りのみんなに雁屋さん家のじゃない方って呼ばれるようになった。
眞白じゃない方。
愛されキャラじゃない方。
僕だって好きこのんでこんな風になったわけじゃない。
僕だって弟のようにものおじせず色んな人と楽しくおしゃべりがしたかった。
いつもみんなの中心で笑っている僕と同じ顔をした弟。
だけど、僕はじゃない方。
誰も僕の事なんて見向きもしない。
でも、僕は僕で弟にはなれやしない。
僕はそれでもいいと思っていた。
あの日、城木先輩と出会うまでは。
*****
僕は本当どうしようもないくらいどんくさい。
前日の雨で滑りやすくなっていたのか何もない所で滑って転んで足首を捻ってしまった。
あまりの痛みに家まで帰れそうになくて、その場に蹲り僕は途方に暮れていた。
何人もの人が横を通り過ぎていく。
これが弟の眞白だったら、誰かが助けてくれたんだろうか?
眞白だったら誰かに助けてって言えたんだろうか?
足首の痛みと情けなさとで胸が痛くて涙が零れそうになった、そんな時だった。
頭上から聞こえた心配そうな声。
「どうした?」
顔を上げると同じ学校の先輩らしき人が心配そうに僕を見下ろしていた。
だけど僕は初めて見る先輩に緊張してしまい、何をどう言えばいいのか分からなかった。
先輩は何も言えないでいる僕に気分を害する事なく、「あっちゃー足やらかしたか。お前ん家どこだ?」なんて言って背中を向けてしゃがんだ。
「え?」
「え?って歩けないんだろう?おぶっていってやるよ。心配するな、こう見えても俺は体力あるんだ。お前おぶって歩くくらいどうって事ない。ほら、早く」
いつまでもおぶさらない僕に、先輩は後ろを振り返りそんな事を言うとニカっと笑った。
ドキンと心臓が跳ねる。
僕はおずおずと手を伸ばし先輩の背中におぶさると、上がっていく視界が思ったより高くなり少し怖くなった。
「危ないから遠慮せず掴まってな」
「……」
震える手で先輩にぎゅっと抱き着く。
「よし、じゃあ行くぞ」
なんて、満足そうに言われて心が震えた。
先輩の背中は広くて温かくて、先輩の優しさに涙が溢れて止まらなかった。
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