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玖絽と眞白
バーガーショップはそれなりに混みあっていた。
玖絽に席をとっておいてもらい俺は注文に行く。
注文した品を持って玖絽の待つ席へと行くと、誰かもう一人…玖絽に話しかけているのが目に入った。
ナンパか?
心配になり急いで近づくと、そこには玖絽と同じ顔をした人間がもう一人。
「え?」
俯いたままだった玖絽が俺の声を聞いた途端、
「―――ぼ、僕帰ります…っ。先輩ごめんなさい!」
そう言うと荷物をひっつかみ店から逃げるように出て行った。
急いで後を追おうとしたが、玖絽と同じ顔をしたやつに腕を掴まれてしまい追いかける事ができなかった。
玖絽と同じ顔同じ体格なのになんて力だ。
「先輩、僕眞白って言います。玖絽の双子の弟です♡ねぇ先輩、玖絽なんかやめて僕にしませんか?同じ顔だし構わないでしょう?ふふふ♡」
そう言って誘うように笑う笑顔に吐き気がする。
「―――気持ちわりぃ…」
「は?僕たち同じ顔ですよ?僕が気持ち悪いって事は玖絽の事も本気じゃないって事ですか?」
怒った顔でそう言う眞白。怒りたいのは俺の方だ。
「そうじゃない。お前は俺の事が好きでもなんでもないだろう?なのにわざとそんな風に俺を誘う。いったいどういう魂胆だ。それに、お前と玖絽ではぜんぜん違う。確かに双子だし造形は似てるが、ぜんぜん違うんだよ」
「―――へぇ…?僕をフルとは流石玖絽が好きになった人だけの事はあるって事か」
「どうしてこんな事を?」
「玖絽が心配だったから。昔僕の事つけまわしてた男がいて、玖絽の事同じ顔だからって襲おうとしたんですよ…っ。今思い出しても腹立たしい!」
「え?玖絽は…?」
「すぐに助けて無事でしたよ。玖絽はね自分の事ダメだって思いこんでる。僕なんかよりよっぽど優しくて素敵なのに、周りに『じゃない方』なんて呼ばれて―――悔しくてしょうがない」
握りしめた拳に眞白が本心から言っていると分かる。
「僕の事選ぶようなヤツだったら玖絽の事は任せられないから、試させてもらった。―――ごめんなさい…」
素直にぺこりと頭を下げ謝る眞白。
さっきまでの棘が消え素直な様は玖絽を思わせ可愛くさえ見えてくる。
といってもあくまでも玖絽の弟として、だが。
「お前、玖絽の事大好きなんだな」
「当たり前!」
真っ赤な顔でそう叫ぶ顔がやはり玖絽を思わせ頬が緩む。
ふっと笑うと眞白がギロリと俺の事を睨んだが、観念したようにため息を吐いき、降参とばかりに両手を挙げた。
「玖絽は多分埠頭にいると思う。落ち込むといつもあそこに行くんだ。玖絽をあんたに任せる。だから絶対に幸せにしてあげて。絶対に裏切らないで」
「それこそ『当たり前』だ。玖絽を不幸にする気なんてさらさらない」
ニカっと笑い、眞白に教えてもらった埠頭へと走った。
お前はなぜ弟のまねをする?
それにどんな意味がある?
どうして本当の自分を隠そうとする?
俺も覚悟を決めて玖絽と本気で向き合おうと思った。
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