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エピローグ 玖絽視点
僕は埠頭に来ていた。
落ち込むといつもここに来て海を眺めるのだ。
潮の香りと波の音が傷ついた心を癒してくれる気がした。
先輩はどう思っただろう?
本物の眞白を見て、僕が偽者だって気づいたかな?
僕は眞白のまねをしていただけの『じゃない方』の玖絽だ。
こんな僕を先輩は好きにならないよね。
僕は何度も先輩に「好き」って言い続けてみたけど、先輩ははっきりとは答えてはくれなかった。
本当は最初から僕が偽者だって気づいてたのかな?
「玖絽」
聞こえるはずがない先輩の声がした。
「なん…で――?」
声が震える。
今頃は眞白と楽しく過ごしてるはずの先輩が目の前にいる。
「眞白――は…?」
「さぁ?」
「え」
「お前は何であいつのまねなんかしてたんだ?」
やっぱりバレてる……。
「そ、れ…は――。僕は先輩が好きです…。でも本当の僕では好きになってもらえない。だから眞白のまねをしました。そうすれば好きになってもらえるって思って……。ごめんなさい――」
ぽろぽろと零れていく涙。ぎゅっと目を瞑る。
先輩が動く気配がした。
もうダメ。これで本当におしまい。今度こそ眞白の元へ行くのだろう。
涙が溢れて止まらない。
ふいに頬を両側に引っ張られて驚く。
目を開けると怒った先輩の顔が目の前にあった。
「ふぇんぱひ…」
僕の頬をひっぱっていた先輩の両手は今度は頬を包み込むように優しく添えられた。
そして先輩の顔が近づいてきて、次の瞬間唇に先輩の唇がそっと触れた。
「!?」
「いいか?よく聞くんだ。俺は玖絽の事が好きだ。俺はあの日玖絽をおぶって家に連れて帰る前からお前の事を知ってたんだ。お前係でもなんでもないのに毎日花壇の花に水あげてただろう?暑い日も寒い日も一日も欠かさず毎日。お前が花に水をやりながら微笑む姿を見て俺はお前の事が好きになったんだ」
―――え?じゃあ…?
「そ、だから捻挫して次に俺の前に現れたお前が弟のまね?をしてキャラが違ってさ、どういう事か分からなくて戸惑ってた。好きだなんだと言ってすぐ抱き着いて来るし、そりゃ素のお前がしてくれたら飛びあがるほど嬉しいけど、どこか違和感あるし、それでお前の本心が分からないうちは告白なんてできなかったんだ」
「―――先輩……僕、『じゃない方』なんです。弟みたいに明るくなんてないし、社交的でもない……きっと本当の僕とじゃつまんないって思っちゃう―」
「俺に言わせれば、弟の方が『じゃない方』なんだぜ?玖絽じゃない方、な。俺は本当の玖絽が好きだ。だから他の誰かになんてならなくていい、なってほしくない。玖絽は玖絽のままでいてくれ。お前が不安だと言うなら毎日でも何回でもお前に好きだって言うから」
「先輩……っ好き、ですっ……」
「おぅ。俺も玖絽が好きだ」
夢みたいだった。
僕のままの僕の事を先輩は好きだって言ってくれた。
僕が先輩を想う前から僕の事を好きだったって言ってくれた。
僕は嬉しくてうれしくて堪らなくて、笑顔のまま涙を零した。
僕は僕のままで先輩の事を好きでいていいんだ。
初めて僕は僕の事が好きになれた。
-終-
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