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「河原」
俺は僅かに腕を引き、再度その名を呼んだ。
呼びながら、さっきまで煙草を持っていた側の手で、河原の頬に触れる。
顔を覆い隠すかのような髪との合間に指を差し入れ、そのまま後ろに流すようにしてその相貌をあらわにさせる。
「え、ちょ……」
さすがに違和感を覚えたのか、河原の眼差しが僅かに揺れた。
俺は笑うように目を細めながら、ゆっくりと顔を寄せ、「何だよ」とその耳元で囁いた。
「……!」
わざと吐息がかかるようにすれば、河原はびくりと首を竦めた。その顔がかぁっと赤く染まる。
少しばかり過剰とも言える自分の反応が恥ずかしかったのだろうか。それとも、俺の声に何かを感じ取ったのか、それは分からないけれど、
「あ……!」
その反応は、俺の引き金を引くには十分だった。
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