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「っ、わ!」
俺は彼の腕を掴む手に力を込めて、一気にその身をソファの上へと引っ張り上げた。
間髪入れずに体勢を入れ替え、座面へと押し倒したその膝上を跨ぐ。動きを封じるように腰を落とし、そうして両腕を頭の脇へと縫い止めれば、河原はもう身動ぐぐらいのことしかできない。
「えっ……な……」
「口を開けば見城見城って……お前、一体あいつとどうなりたいんだよ」
堪えきれず、河原の言葉を遮るようにして吐き捨ててしまう。すると彼は一瞬動きを止めて、酷く驚いたような眼差しを俺に向けた。
「ど、どうって……」
俺が冷ややかに見返すと、瞳に浮かぶ困惑の色がますます強くなる。
けれども、こんなふうにされてなお、俺が何をしようとしているかの想像はついていないようで、その表情――頭に浮かんでいるのはひたすら疑問符ばかりに見えた。
(まだ、わかんねぇのかよ)
抵抗らしい抵抗もされない。拒絶らしい拒絶もされない。
何でだよ。少しは気付けよ。いい加減、察してちゃんと逃げろよ。俺の腕の中から!
……けれども、そんな思いとは裏腹に、
「え……、待っ――んぅ……!」
次の瞬間、俺はいっそう追い詰めるみたいに、彼の唇を塞いでいた。
「……っ」
河原が信じ難いように目を瞠る。
それを視界の端にとどめながら、俺は酒の香りがする薄い唇を食み、何か言いかけたがために開かれていた隙間から強引に歯列を割った。反射的に逃げを打つ彼の舌を追いかけ、絡めとると、緩急をつけて吸い上げ、その表面に甘く歯を立てる。
そこまでされて、ようやく河原ははっとしたように顔を背けようとした。痛みがあるのか、嫌悪によるのか、困ったように眉根を寄せて、懸命に首を捩る。
「っん、ぅっ……、んん……っ」
だが俺はまだ彼を放さない。
放さないどころか、彼の所作に合わせて何度も唇の角度を変えて、口付けをより深いものへと変えていく。
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