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「ふ……っ、……」
流されたのか、諦めたのか。あるいはそのどちらもなのか。
いつのまにか震えるほど強張っていたその身体が弛緩しているのに気付いて、俺はやっと口付けを解いた。
気がつけば、河原の手首を掴む手にも思いの外力が入っていた。もしかしたら痣ができてしまったかもしれない。思うものの、俺はなおその手を離せない。
「なぁ、河原……」
唇を離しても、吐息が掠めるほどの距離のまま、俺は呟くように呼びかけた。
応えるように向けられた双眸が、茫洋と俺を捕らえる。
俺は僅かに目を細めた。
……河原が童貞じゃないのは知っている。
過去に付き合っていた彼女がいたことも、河原の好きなタイプがどんな女なのかも、過日の他愛ない話の中で聞いたことがあった。
よって、河原がストレートなのは間違いないのだ。
そんな中、同性と何かあるなんて、きっと想像すらしたことがないに違いない。
……ごめんな。
お前のこと、好きになって。
心の片隅では確かに申し訳なく思うのに、
「……見城のことは、もう考えるなよ」
まるでさせるに任せるよう、抵抗をやめた河原の姿に、どこか受け入れられたような気にもなっている。
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