*7.引き金を引いたのは

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 ……最低だ。こんなの絶対気のせいなのに。  心の中で自嘲しながらも、俺はまっすぐに河原の顔を見下ろしたまま、きわめて一方的に言葉を重ねる。 「忘れろよ。そんな昔のことなんて」 「な、んで……、暮科が、そんなこと……」 「……いいから、もうあいつには関わるな」  河原の瞳が戸惑うように揺れる。当然だろう。俺が同じ立場でもそんな程度で納得はできない。納得できないどころか、反感すら抱いてしまうかもしれない。  困ったように俺を見つめたまま、河原の唇が言葉を探して小さく動く。その眼差しが、いっそう困惑の色を深める。  だがその一方で、(まなじり)を淡く染め、涙に滲むその様は、熱っぽく誘っているようにも見えて、 「できなきゃ……やめてやらねぇ」  俺は吸い寄せられるように顔を寄せ、頬を掠めて、耳元へと囁きを落とした。 「え……っだ、だって……」  利き手で掴んでいた手を放し、その手のひらで河原の頬を撫でる。  頬から首筋へと(くすぐ)るように指で辿り、行き着いた先でシャツのボタンを一つ外した。  解放された河原の片手。けれども、河原はそれをすぐには動かそうとしない。いまだ縫い止められているかのように、座面へと置いたまま、微かに指先を動かすだけだ。  内側の薄い皮膚には、うっすらと鬱血の痕がついていた。 (何で抵抗しねぇんだよ……)  しないというより、できないのかもしれない。  それを痛々しく思いながらも、ここで止めるという選択肢はもうなかった。  一つ、また一つとボタンを外し、あらわにさせた鎖骨に触れる。合わせを開き、布地の下へと手のひらを滑り込ませると、 「な、にしてっ……」  そこでようやくぎくりと河原は肩を跳ねさせた。
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