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「く、暮科……」
どうにか、といういったふうに掠れた声で名を呼ばれたが、俺はそれには応えなかった。
応えず、ただ淡々と顔の位置をずらしていく。その傍ら、下腹部へと服越しに触れていた指先をスウェットのウエストに引っかけると、それを河原が指摘するより先に、一気に下着の中へと手のひらを滑り込ませた。
「っ! あっ、ま、待って……っ暮科!」
河原の声が上擦り、肌が一段と淡く染まる。
それが怒っているからなのか、戸惑いからなのか、あるいは単に羞恥心からくるのもなのか、俺には正直判断できない。
もしかしたらその全部が原因かもしれないが、全力で俺を拒絶しようと言う気があるようには見えないからよけいにわからなくなる。
河原の片手は、俺の肩を掴んでいる。だがその割りに力が入っていないように思えるのは、飲み過ぎた酒のせいなのか。
他方の手はいまだに俺が掴んだままで、自由にはさせていない。
「えっ……え、嘘、ちょっ……くれし、暮科っ」
震える声に煽られる。俺はぺろりと自分の唇を舐めた。
意外だったのは、直に触れた河原のそれが、思いの外兆していたことだ。
もしも身体に上手く力が入らないくらい酒が回っているのなら、このまま触れていても反応はないかもしれない。思っていたが、それは杞憂だったらしい。
(……このまま、……)
ちらりと河原の顔を見上げる。
その目元は熱を帯びたように紅潮し、揺蕩うみたいに揺れている。酔いのせいか、生理的な涙に滲むその双眸が物言いたげに俺を見ていた。
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