3.近いようで……

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(……やば)  とくんと心臓が小さく跳ねる。  反して河原はどこか気恥ずかしそうに微笑んだだけで、俺が通したばかりのオーダーにすぐに取りかかった。  どきどきと鼓動が忙しなく鳴っている。  そんな自分の反応は予想以上で、 (……何やってんだ、俺は)  俺はどうにか視線を逸らせただけで、束の間その場に立ち尽くしてしまう。  数日前――木崎と飲んだ日のことが影響しているんだろうか。  現にあれ以来、必要以上に河原を目で追ってしまっているような気がしないでもない。 (こんなだから、木崎にもバレたのかもな……)  心の中で自嘲気味に呟くと、間もなくホールからの呼び鈴が鳴った。  俺は一つ息をつき、再び厨房を後にした。  *  *  * 「あ、ねぇ暮科!」  空いたばかりのテーブルを片付け、汚れた食器を手に戻ってきたら、ちょうど休憩時間が終わったところだった木崎が、急くように二階から降りてきた。  あんなやりとりをした後でも、木崎はあくまでも以前と彼と変わらなかった。もしかしたら酔っていたせいで何も覚えていないのだろうか……。そう思ってしまうほど、彼の態度は不自然なまでに自然だったのだ。  ……とは言え、「俺、どんなに飲んでも記憶を飛ばしたことはないんだよね」という念押しだけはされたから、覚えていないという線はまず消えている。  なるほど、自分で隠し事が上手いというだけのことはあるようだ。  うっかりぞっとしてしまうほど納得した俺は、今後はもう少し慎重になろうと密かに心に決めたのだった。……少なくとも木崎の前ではことさらに。
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