3.近いようで……

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「ちょっと耳かして」  言うなり、木崎は両手が塞がっていた俺の耳元に顔を近づけようとする。  俺は少しだけ身を屈め、自分からも彼の方へと頭を寄せた。木崎は背が低いので、こうしなければ届かない。 「明日も二人、休むみたい。さっき店長室の前通ったら、偶然聞こえて……しかも」  偶然? 聞き耳を立ててみたら、の間違いだろ。  思いつつも、溜息混じりに「しかも?」とだけ聞き返す。  ゆっくりとシンクの方へと歩きながら、木崎のひそひそ話に耳を傾けていると、 「このままだと、厨房の子もホールに出さなきゃなんないかもって……」  更に声を潜めて続けられた言葉に、俺は思わず目を瞠った。  危うく〝置く〟というより〝落とし〟そうになった食器をシンクに下ろし、 「…………河原もか?」  倣うように潜めた声で返せば、木崎は「うーん」と曖昧な仕草で首を捻った。  そうじゃなければいいけどね……と、その目が物語っている。  自然と深い溜息が漏れる。つられたように木崎もはぁ、と息をついていた。 「……とりあえず、そっちはまだ未定なんだろ」 「まぁ、ね」  暫しの沈黙ののち、俺たちは揃って作業中の河原をそっと振り返った。
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