3.近いようで……

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「でもほんと、昨日は一滴も飲んでないんだよ」 「……そうかよ」 「だからまぁ……気圧のせいかもね」 「あぁ? 天気痛ってやつか?」 「そう、それ」 (なんだよ……)  ぺろりと舌先を覗かせた木崎に、俺は呆れたように息をついた。  なんだかんだ言って、木崎は早番も遅番も、そしてホールも裏も全てこなせる貴重な人材の一人だ。正直、こいつがいるのといないのでは全然違う。 「そういう暮科はどうなのさ?」 「俺はここ数年風邪らしい風邪なんてひいていない」 「……それって自慢できることなの?」  言外に、「なんとかは風邪ひかないんでしょ」と言われた気がして俺は無言で彼を見た。睨むように横目に一瞥――。  すると木崎は「冗談だよ」とけらけら笑って、俺の背中をばしばしと叩いた。……これで本当に頭痛がしているんだろうか。 「とりあえず、気をつけろよ」  念を押すように言って、俺は再度深い息をつく。  そこにホールからの呼び鈴が響く。慌てて洗ったばかりの手を拭こうとすると、 「いいよ、俺行くから」  それより先に、木崎がさっと厨房を出ていった。  普段はいい加減なところも目につく男だが、こういう時の切り替えの早さは見習いたいところでもある。 (つーか、明日も二人休みかよ……俺の休みはいったいいつになるんだ)  思いながらも、俺は手早くシンク内を整えると、新たな来店客(ドアベル)を機にホールに戻った。
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