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「で……ロッカーはここな」
数分後、再び更衣室へと戻ってきた俺の前には、見慣れない一人の青年が立っていた。
俺は名前の書かれていないロッカーの一つを示しながら、「あと、これ」と、ついでのように持っていた制服を差し出した。
けれども、それを彼はすぐには受け取ろうとしない。
一拍おいて、ようやく手を出してきたと思ったら、驚くほどぎくしゃくとした動きで制服を掴み、続けてぺこりと――いや、どちらかと言えばがくりといった感じの動きで頭を下げた。
(……なんだ?)
一言で言えば挙動不審。
そんな彼の仕草や表情――は長めの髪と俯きがちなのとでよく見えないけれど――は何て言うか……まるで油の切れたロボットみたいというか、とにかくそれくらい不自然に見えた。
緊張しているせいなのだろうことは想像がついた。ついたけれど、そのぎこちなさはうっかり目で追ってしまうほどで、そのたび俺は意識して視線を逸らすのに必死だった。
大学卒業と同時に、俺がレストラン〝アリア〟の正社員となって2年目の春。
その日、新たに社員として入ってきた彼の名前は、河原英理。年齢は俺と同じ二十三歳、木崎は早生まれだから二十二だが、学年は共に同じだ。
店長室に呼ばれた俺は、ろくな前振りもなくいきなり彼を紹介された。そしてそのまま、一方的に押し付けら――任されたのだ。新人である彼の教育係を。
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