3.近いようで……

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 *  *  更衣室には、既に誰の姿もない。残っていた気配と言えば、よほど急いでいたのか、閉め損ねたらしい木崎のロッカーが半端に開いていただけだった。  ……っていうか、用があったならもっと早く帰れよ。  心の中でぼやきながら木崎のロッカーを閉めると、その背後で先に着替え始めていた河原が不意に口を開いた。 「そう言えば……」  本当ならいつものように一服したいところだったが、今日は時間も時間なため諦めるしかない。仕方なく河原に倣うように自分のロッカーを開けると、その扉の脇から河原がひょこりと顔を覗かせた。 「暮科、明日早番になった?」  ……だからそういう不意打ちはやめろ。  無駄に大きく開けたままにしていたロッカーの戸の意味を考えて欲しい。  いや、本当に考えられたらそれはそれで困るんだけど。 「あぁ、明日は早番が足りないらしいからな」  思いがけず視線がかち合い、再び心臓が跳ねたけれど、俺はどうにか平静を装い、そのまま帰り支度を続ける。 「相変わらずお前のシフトは忙しいなぁ」 「まぁ、そういう契約だから」  視線を手元に戻すと、苦笑気味に頷いた。  するとまたしても河原が「あっ」と急に声を上げ、 「じゃあ、良かったら俺の次の休み……! って、だめか。俺じゃあお前の代わりなんて務まらない、もんな……」  かと思うと、次にはどこかしゅんとしたように言いよどむ。  そこでようやく顔を引っ込めた河原に、俺は小さく息をついた。河原の視線がなくなったことにほっとして――と同時に、心の中では別の意味での溜息を重ねながら。
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