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* * *
二人揃って店を出て、帰り際によく立ち寄るコンビニでホットの缶コーヒーを二つ買った。河原は通りに出るなり早速それを飲んでいたが、俺は暖を取るために手の中で転がしているだけだった。
「――あ、そうだ」
並んで歩き出して少しした頃、思い出したように口を開いたのは河原だった。俺は彼の顔を横目に見遣った。
「木崎さ、恋人できたんだって。――あ、暮科には言っていいって言われてるから……」
「……恋人?」
「そう、前からいいなって思ってた人らしいよ」
「あー……」
思わず気の抜けた声が漏れた。
いつもは仕事が終わるなりとっとと帰ってしまうはずの木崎が、わざわざ居残ってまで話していたのは、その報告だったのか。
確かに俺も、単に最近気になる人がいるという話だけなら木崎から聞いた覚えがあった。だがあいつのその手の話は本当に多いから……。
実際、その時の相手と無事付き合うことになったという報告を受けることもあるにはあるのだが、次にはもうとっくに別れたよと当然のように言われることも少なくなくて。
そんなだから、俺はもう木崎の恋愛話はまともに取り合わなくなっているところがあった。それを河原は真面目に聞いてやっていたということだろう。
ということは、木崎が思い出したという用事も、その相手とのことに違いない。
(つか、それって結局惚気だろうが……)
思えば堪えきれず舌打ちも漏れる。
と同時に、あんなにも気にしていた自分がばからしくなった。
「……木崎って、すごいよな」
「え?」
そんな俺の胸中など知るよしもなく、河原はマイペースに感嘆の息を吐く。
「少し前から店に来てるっていう、お客さん……金髪の人? 俺は直接見たことないけど、その人とも友達になったって言ってたし」
「あぁ……あの常連……」
てか、それもあいつ、いつのまに……。
その客のことは俺も覚えている。
覚えているというか……実は俺にとってそいつはちょっと苦手な客だった。
理由はその男の風貌が、一見〝彼〟に似ていたから。俺が昔関係していた……河原に出会う前まで、不本意ながらもずっと引きずっていた過去の相手に、似ている部分がいくつもあったからだ。
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