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「いいからとっとと休憩入れよ。お前が入らねーと後ろがずれ込むだろ」
俺は休憩に入る予定時刻の14時を過ぎても、なかなかそれに従おうとしない木崎を捕まえ、無理矢理2階へと続く階段前まで引きずっていった。
「あー、うん、それは分かってるんだけど……って、あーっ水! ちょ、それも俺が――」
「分かってるなら早く行け!」
先ほどホールから帰ってきたばかりの木崎のテンションが妙に高い。
構わず2階へと促すが、木崎と入れ替わるように一人分の水を用意して出て行った別のスタッフの背中に、慌てて手を伸ばそうとするくらい何やら必死になっている。
俺はその肩を階段へとまっすぐ向き直らせて、呆れたように溜息をつく。
「うるせぇんだよ。いいから行けっての」
「だってっ……だってほら、暮科も見てよ! あの人だよ!」
「あの人?」
「前に言ったじゃん、あの金髪の長髪の超格好いい……」
「そいつなら俺も知ってるよ」
〝超〟は言い過ぎだと思うけどな。
すると木崎が元々大きな目を更に大きくさせて、再び俺を振り返った。
「そうなの?!」
「そうなのって……マジもういいから行けって」
「だって暮科、まだ見たことないと思ってたから……」
「しつけぇんだよ」
なおも食い下がろうとするその背を強めに押すと、木崎はようやく階段を上り始めた。まだ何かぶつぶつ言いながらではあったものの、間もなくその姿が視界から消える。
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