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「はぁ……」
疲れる……。
思わず深く長い息が漏れる。
木崎の後ろには、あと一人だけ休憩を控えているスタッフがいた。
俺は今日は30分単位で2回、取れるときにとることにしているからまだいいとしても、木崎の次のスタッフは少し前に入ったばかりの学生のバイトだ。やっと一人前に動けるようになったところだというのに、こんなことで不満を抱かせるわけにはいかない。こんなばたついた現状で辞められでもしたら、それこそまた俺の休みが……。
(まぁ、もう少ししたら河原が来るし……)
遅番のシフトは15時からなので、木崎の休憩が終わる頃にはその顔も見られるはずだ。そうすればこのやさぐれた心もきっと少しは慰められる。
何気なく視線をやった天井近くの窓からは青空が覗いていた。今日は雲が少ないから、見える星も多いかも知れない。深夜に仕事を終える河原は、きっと今日もそんな夜空を眺めながら帰るのだろう。……俺の横で、いつもそうしているように。今夜もせめて、その隣を歩ければ良かった。
ふとしたことで、そんな思っても仕方ないことばかりが頭を過る。
(……いや、仕事だ仕事)
これでは木崎のことが言えなくなる。
キッチンに戻ると、ちょうどホットコーヒーが用意されたところだった。俺はそれを持っていたトレイに載せ、添えられていた伝票を確認しながらホールへと続く扉を抜けた。
* *
(げ……これ、木崎が注文取ってきたテーブルかよ)
どうにか思考を切り替えたはいいけれど、次には再び気分が下降していた。
ホールに出るなり、伝票に書かれていたテーブルを目視すると、そこに座っていたのは、例の常連客。
俺はとっさに視線を逸らしながらも、結局はしぶしぶながらも指定のテーブルへと足を進めるしかなかった。
だって今更引き返すことなんてできないし、分かっていたら別のスタッフに行ってもらったのに、などと思っても後の祭りだ……。
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