6.深意と真意

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 一度も振り返ることなく足早に公園を後にした俺は、ちょうど通りかかったタクシーを拾い、身を隠すように中へと乗り込んだ。  ……だいたい、決まってた舞台はどうなったんだ。なんでこの時期に日本に帰ってきてんだよ。  卒業してすぐ……アメリカ(向こう)に戻ってからも、あんなに、あんなに仕事も順調そうだったのに。  河原に惹かれ始めてからは機会も減っていたが、俺は見城と縁を切った後も、密かにその後の活動についてネットの記事を探したり、向こうの雑誌をチェックしたりしていた。  そして先日、思いがけない再会をしたことでまた記事を検索してみたのだ。今回は特に興味があってのことじゃない。単に近況はどうなってんだと思ったから。  そうして見つけた記事には、この冬に比較的大きな舞台を控えていると書いてあった。  翻訳サイトを経由したその記事は正直分かりにくかったけれど、そこに〝キャスティングされた〟と書かれていたのは間違いなかったはず――。 (それが何で……)  見城がどういう意図で帰国したのかさっぱり分からない。  挙句、突然降って湧いたような初恋話を聞かされて、しかもそれが河原で?  どうなってんだよと頭を抱えたくなるけれど、 (初恋……)  考えてみれば、関係のあった学生の頃、見城から聞いたことがあったのは彼が中学を卒業して以降――渡米してから先の話ばかりだった。  関係が関係だったため、俺もできるだけ深入りしないようにと、提示された以上に求めることはしなかったし、求めようとも思わなかったが、もしあれがあえてのことだったなら……。 (……らしくねぇんだよ)  その想いは、俺が想像する以上に深いものだったのではないだろうか。  現に今の今まで、〝誰にも言ったことなかった〟ということだったし……。 (――そんなに好きなのかよ)  心の中で呟くだけで、胸の痛みが一気に増した。
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