6.深意と真意

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(……つーか…………)  何でよりによって見城(あいつ)なんだよ。  こんなの最初から勝負は見えている。  俺が言うのもなんだけど、あいつに本気で口説かれて落ちない相手はいないだろう……。そう思えるような男なのだ。  俺とは違って躊躇もないし、当たり前のように相手の懐へと入り込む巧みさもある。  今日だって、久々に再会した日だってそうだった。彼は迷わず俺に声をかけてきて、結果、俺は彼の車でこんなところまで――。 (土曜ならって、言ってたっけ……)  窓外を流れる景色をぼんやり見つめながら、俺は見城の言葉を思い返す。  さっきのやりとりでもう、河原がアリア()いることはバレてしまった。となれば、これからますます彼は河原に会うために動くだろう。  基本河原はホールには出ないけれど……だからってそんなことを繰り返されたら、いつどこでばったり、なんてことにならないとも限らない。  そうなったら……。そうなったらどうなってしまうのか。  俺はぎり、と歯噛みする。  少なくとも……河原は喜ぶだろうな。喜んで、そこから誘われれば容易にOKするだろう。  だって河原は元々見城に懐いていたんだから。……俺なんかよりずっと。  そこに断る理由はない。 (……会わせたくない)  会えばきっと絆される。顔を見れば、声を聞けば――河原はもう、彼のことしか見えなくなる。  想像するだけで息が詰まる。  俺は目を閉じ、小さく首を振った。 (――――渡したくない)  見城(あいつ)に渡すくらいなら、いっそどこかに閉じ込めてしまいたいと思うほど。誰の目にも触れないように閉じ込めて、鍵をかけて、俺だけのものにしてしまいたい――。  …………なんて、思うだけなら簡単なのにな。
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