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「でもさぁ、河原の名前知ってたんだよね。フルネーム。あ、もちろん俺は何も教えてないよ?」
「そう、なんだ……? ……じゃあ、やっぱり知り合い、なのかな」
心臓が身体ごと揺らすように拍動する。
もうやめろと言いそうになる口を努めて引き結ぶ。
「……じゃないかなぁ? わざわざ俺に外で声かけてきたくらいだし……。ていうか、ほんと河原のことよく知ってそうな感じがしたんだよね」
「えー……誰だろ。全然分からない……」
ごそごそと継続的に動いていた河原の気配がぴたりと止まる。そのまま考え込むような沈黙が落ちる。
河原が答えを導き出す前に、どうにか誤魔化せないだろうか。
この期に及んで思うけれど、今更どうにかできるわけもない。
(くそ……木崎のやつ、よけいなことを)
ややして、先に口を開いたのは木崎だった。
「……まぁ、それでさ。実は頼みごとがあるんだよね」
「頼みごと?」
「うん。もしさ? もし……ほんとに河原が彼と知り合いだったとして……ちゃんと再会できたらさ? そしたらぜひ、俺にも紹介してもらえたらなぁなんて――」
(はぁ?!)
今度こそ声を上げてしまうところだった。
っていうか木崎の本題はそこかよ! 冗談じゃねぇ……!
俺はとっさに自分の口を押さえ、押さえながらも、気がつくとリビングへと踏み込んでいた。
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