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「あ、くれし……」
「あの金髪は見城将人っていう俳優だよ。気になるなら後は自分で調べろ」
きょとんとした顔で俺を見返してきた河原を視界の端に、はっきりそう言い捨てる。
すると一瞬の間ののち、木崎は音が割れるほど高い声を響かせた。
「えっ、え? 暮科?! えぇっ、あの人芸能人なの?!」
俺がいたことも、内容も、恐らくはそのどちらにも驚いたのだろう。驚いて、かと思うと一気にテンションを上げて、早口にまくし立ててくる。
「っていうか、何で暮科がそんなこと知ってんの? そういうのそんな詳しかったっけ? ――あ! そう言えば以前暮科の部屋に外国の雑誌あったよね?! あれってそういうこと?! 日本で有名な人じゃないもんね……?!」
あぁもう、うるせぇ……!
……っていうか、雑誌置いてたの相当前だし、それがすぐ浮かぶとか、そもそもそれ自体しっかりチェックしてたとかマジ何なのこいつ……。ただ他の本と一緒に、ラックに置いていただけなのに。
「うるっせぇ。後は自分で調べろっつっただろうが。話がそれだけならもう切るぞ」
言うなり俺は、まだ何か言いかけていた木崎を無視して、勝手に通話を終了させた。
(あいつ……マジねぇわ)
無意識にため息をついてしまう。そうして、その表示が通常の待ち受け画面に戻ったころ、横からぽつりと呟く声がした。
「見城……」
俺ははっとして顔を上げた。
「見城、将人……」
反芻するように繰り返した河原の表情は、まるで信じ難いように、けれども、次第に花開いていくみたいに綻んでいった。
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