*7.引き金を引いたのは

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 見城はアメリカを拠点として活動しているモデル兼、舞台俳優で、海外(向こう)の雑誌にも時々記事が掲載されている――。  そう説明すれば、河原は素直に「それで木崎が言ったみたいな派手な外見になってたのか」と納得してくれた。それ以上根掘り葉掘り訊かれることもなく、そういうところにはやはり救われていると思う。  大学生の頃の知り合いだということは特に言わなかった。  もうすっかり過去のこととは言え、言おうとすればどう言えば、どこまで言えばいいのかもわからなくて、結果そこは全て伏せたままにした。  後ろめたさのようなものがなかったとは言わないが、その時の俺にはそれが精一杯だった。 「それにしても……最後に会ったのって、もう十年以上前のことなのに、まだちゃんと俺のこと覚えててくれたなんて……」  そこでようやく河原は教えてくれた。  幼なじみとしての見城の話を――そしてピアノの発表会の時の詳細を、「言ってなかったっけ」とまるで悪びれたふうもなく……。 「……何かやっぱ、嬉しいな」  ぽつりと落ちる柔らかな声。  少しだけ(くすぐ)ったそうに、けれども心底嬉しそうに細められるその目元。  感慨深げに浮かべられた微笑みは、いつにもまして幸せそうで――。 (そりゃ嬉しいだろうな)  率直な感想を抱きながらも、その一方で俺の中で(くすぶ)る焦燥は消えない。消えないどころか募るばかりで、それを誤魔化すためにも、俺は缶を呷るピッチを上げた。
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