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見城はアメリカを拠点として活動しているモデル兼、舞台俳優で、海外の雑誌にも時々記事が掲載されている――。
そう説明すれば、河原は素直に「それで木崎が言ったみたいな派手な外見になってたのか」と納得してくれた。それ以上根掘り葉掘り訊かれることもなく、そういうところにはやはり救われていると思う。
大学生の頃の知り合いだということは特に言わなかった。
もうすっかり過去のこととは言え、言おうとすればどう言えば、どこまで言えばいいのかもわからなくて、結果そこは全て伏せたままにした。
後ろめたさのようなものがなかったとは言わないが、その時の俺にはそれが精一杯だった。
「それにしても……最後に会ったのって、もう十年以上前のことなのに、まだちゃんと俺のこと覚えててくれたなんて……」
そこでようやく河原は教えてくれた。
幼なじみとしての見城の話を――そしてピアノの発表会の時の詳細を、「言ってなかったっけ」とまるで悪びれたふうもなく……。
「……何かやっぱ、嬉しいな」
ぽつりと落ちる柔らかな声。
少しだけ擽ったそうに、けれども心底嬉しそうに細められるその目元。
感慨深げに浮かべられた微笑みは、いつにもまして幸せそうで――。
(そりゃ嬉しいだろうな)
率直な感想を抱きながらも、その一方で俺の中で燻る焦燥は消えない。消えないどころか募るばかりで、それを誤魔化すためにも、俺は缶を呷るピッチを上げた。
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