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「飲まねぇのかよ」
言えば思い出したように河原は缶を開けた。
そうして一度は話が途切れたものの、
「じゃあ……また店に来るかもしれないんだ」
結局、それから数時間が経っても、河原はことあるごとに見城の話題に触れてきて――。
「まぁ……その可能性は高いだろうな。お前のこと、名指しで探してるくらいだし……」
それぞれの缶ビールがいくつも空になり、そこに追加したウィスキーや冷酒を飲み始めてもなお、
「そっか……それなら直接会うこともできるかもしれないな。近いうちに……」
まるで飽きるふうもなく、彼はひたすらその瞬間を待ち侘びるかのように微笑っていた。
(……だから、その笑顔やめろよ)
そのたび俺は心の中で吐き捨てる。
いい加減もうその話題から離れろよ。
言いたいのに言えず、かと言って部屋を出て行くこともできず、俺はただそんな河原に付き合うしかない。
こんなタイミングで帰ると言えば、河原だってさすがに何ごとかと思うだろう。
まさか俺が見城に嫉妬しているだなんて気付くことはないだろうが、そんな中途半端な状態で、変に気を遣われるのはもっと嫌だった。
「将人くん……変わってないといいな」
(将人くん、て……)
いつの間にか、〝将人さん〟が〝将人くん〟に変わっている。
あいつのこと、昔はそう呼んでいたのか。やっぱり河原の中で見城の存在は大きいんだな。
改めて敵わないことを突きつけられた気がして、俺は思わず奥歯を噛み締めた。
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