25人が本棚に入れています
本棚に追加
「ね、もしかして、健人さんに抱きしめられた?」
楓から海を連想させるマリンノートが微かに香る。
この香りは健人さんが好んでつける香り。
楓の親代わりで、女性を好きになる事はないって昔から知っているけれど。
それにしても近すぎる2人の距離にいつも、やきもちを妬いていた日々が懐かしい。
思わず抱きしめる腕に力が入りすぎて、楓がフッと息をつくのが分かる。
腕を緩めると、苦しかったのか涙目で見上げてきて。
「うん、そうだよ」
何を今さらと隠しもしないその様子に思わず笑ってしまい。
「今度からは、もう軽々しく抱きしめられないで」
何て今さらすぎるガキ丸出しのセリフを呟くと
「え、それは無理かも」
サラッと流された。
さっき、健人さんから楓の傍にいてやってと、メッセージをもらい
それがなければ、今ここには居なかった。
感謝していいはずなのに、やきもちって。
大人になっても変わらず情けない自分をこれが拗らせなのかと思いながら。
「でも、桜井だって抱きしめるし……それからそれ以上も……」
そう言って何かを思い出した様に楓は真っ赤になって固まる。
「そうだよ、だって楓が可愛くて大好きだから」
すかさずそう言えば、もうこちらを見てくれなくなった。
やりすぎたかと一旦腕の中から解放すると
楓はそそくさと自分の椅子に戻る。
「もう、それは分かったから、これ以上、心臓が持たないから」
そう言って恨めしそうにこちらを見たかと思うと
「しばらく、好きっていうの禁止ね」
そう言って真っすぐ前を向いてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!