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「なあ、井川って気になってる女子とかいるのか?」
と思い切って聞いてみた。
「いや、特にいないけど。」
ってごく普通に返される。
オレは何がしたいんだ?
「桜井は長瀬さんと付き合ってるんだよな?そういえばクラスの女子や後輩達が嘆いてたの2ヶ月くらい前だったな。」
爽やかな笑顔のまま
「モテるんだな。羨ましいよ」
と感心された。
何だか心がざわついて
「オレはお前の方が羨ましい」
って独り言を呟いた。
聞かなきゃ良かった。どうやったって井川には敵わないのだから。
いや、敵わないって何が?
「お、ハル達来たみたい。」
そう言って会話を終わらせた。これ以上話すと何を言ってしまうか分からない。
近づいてくる楓の姿から目が離せない。
浴衣姿が綺麗で慣れない下駄を気にする仕草がいつもより可愛くて。
早く側に行きたくて適当に女の子達を切り上げて人の輪から抜け出た。
近くに来た時、思わず
「可愛い」
って声に出たみたいで、ハルが勘違いして
「ありがとう」と言ってくれて何とか誤魔化せた。
この姿を井川の為にって頑張ったんだろうなと思うとなおさら素直になれないオレは
「楓は馬子にも衣装だな」
ってちゃかしてしまった。
思い切り睨まれたけど、それすら可愛くて思わずニヤけてしまう。
そんなオレの横顔をハルがジッと見つめているのに気づけないほど、意識は楓へと向かっていた。
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