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人が溢れ返る屋台通りを何とか抜けて、海沿いの道にたどり着いた。
今日の海は波が静かで、風も凪いでいる。
月の優しい光を受けた水面が、揺れるたびに美しい光を放つ。
夜空は優しい蒼。
「ごめんね。アイツ遠慮を知らないやつで」
井川くんが言うたび、増田さんとの距離の近さに心の中がジリジリと焼けてとても痛い。
「ううん。大丈夫だよ。とっても可愛らしい子だったね」
やっと笑顔を貼り付けて井川くんの隣に並ぶ。
その後はぐれた2人に会えるはずもなく、歩き疲れてしまったので井川くんの提案で、帰る事にした。
控えめな街灯の光が夜道を照らす。
あれだけ緊張してたのが嘘みたいに、帰り道はとても楽しい。
だけど下駄の鼻緒が食い込み、ものすごく痛くて歩くのがとても遅くなる。
そろそろ我慢の限界が近い。
「岡山さん、もしかして足が痛い?」
ついに井川くんに気づかれてしまう。
「うん。家まで持つかなって思ったんだけど」
もう、足の指の間が擦れていて痛すぎる。
思い切って裸足になろうと下駄を脱ぎ覚悟を決めたその時
「はい、乗って」
と井川君が私の前にしゃがむ。
「痛いの我慢したら、もっと酷くなるよ。遠慮しないで、ほら。」
井川君は少し振り向いて、とても優しい笑顔で促してくれる。
私らしく今日を楽しむ。ハルの言葉が私の背中を押してくれる。
「あいにく絆創膏が手元にないし、薬局も近くに無いから嫌じゃなかったら。」
なんて言われたら、もう断る選択肢はどこかへ吹っ飛んだ。
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