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「それよりさっきから桜井ファンの方々の視線が痛いんだけど」
と新婦友人の一団が無遠慮にこちらに視線を投げかけてくる。
新婦友人の皆さんは、私達の1つ下の後輩が多いようだ。
知ってる顔ぶれもチラホラ見える。
「懐かしいな」
そう呟きながら、そちらへ顔を向け、表の爽やかスマイルで手を上げて挨拶する。
とたんにキャーっと悲鳴の様な歓声が上がる。
「桜井、何か昔よりバージョンアップしてない?」
と棒読みで称賛すれば
「だろ?」と不敵に笑われた。
「井川家、増田家の披露宴はこちらとなります。」
と遠くから声が聞こえてきたので、話を切り上げバンケットへと向かう。
井川家と増田家、ね。
そう1つため息をついて重い足取りで歩を進めた。
どこからか金木犀の香りが風に乗って私の元へやってくる。
甘く優しい香りが私の心の柔らかな部分を切なく締め付ける。
このタイミングで思い出したくなかったのに。
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