お客様は神様

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 あの一件以来店はさらに繁盛し、私の時給も上がった。心なしか店長の顔はますます福の神に近づいてきたし、私もお客さんの視線を多く感じるようになり、微笑をたたえていることが多くなった。  友美もよく『武神』を訪れるようになった。私たちは商学部で、特に私は劣等感から将来たくさん稼ぎたいと思っている。ゆえに店長から成功の秘訣を聞き出そうと、よく経営の話を持ち出した。しかし大概店長の言葉は決まっている。 「お客様は神様だと思って接することだよ。そうしたら神様はちゃんと見ていてくれるから」  そう言って店長は目を細めてニコニコと笑うだけだが、それに対し私も友美もやれやれと首を振るだけだった。  そんなある日、店長はちょっと仕入れに出かけるからと、私たちに留守番を押し付けどこかへ出かけて行った。友美と二人店に取り残されると、私はふと思い出した。 「あっ、そういえば、この前店長がなんか変だったんだよね」  私はこの店の、2階での出来事を一部始終友美に話した。聞き終えた友美は腕を組み、難しい顔をしてしばらく考え込んでいる。 「ねえ、ちょっと変じゃない?」  ようやく考えがまとまったのか、友美はゆっくりと切り出した。 「いつもお客様は神様って言ってるのに、その時は手元のに向かって神様って呼びかけてたんだよね?」  友美の言葉に私はハッとした。 「それに、いつも私たちに言ってるよね。神様はちゃんと見てくれるって。神様はお客さんじゃないの……?」  私たちは顔を見合わせた。そして申し合わせたかのようにゆっくりと階段に目を向けた。  やがて友美が腰を上げた。 「ねえやめよう?」  私はすぐさま友美の腕を掴んだが、友美は制止を無視して歩を進めた。かくいう私も内心、の正体を知りたい気持ちが勝り、友美に付き従って階段を上って行った。
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