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日々の職務
「その程度の覚悟じゃ許可は出せないな」
アドリア海に面した港街。
トリエステ自由都市の役場に、落ち着いた声が響く。
赴任して間もない若い役人。
ジュリオ・ロッシが、目の前の男の訴えを退けたところだ。
「おいっ! 出せないってどういうことだよ!?」
断られた小太りの中年男は、動揺を隠せない。
「蛇に手足が無いように、出ないものは出ないということだ」
ジュリオは顔色を変えず、きっぱりと断る。
「そんなこと言ってないで頼む! 今日中に金を作らないと俺は終わりなんだよ!」
中年男は跪き、藁をも掴む思いで懇願する。
担保になる物があれば、こんな役場になんか来なかった。
真っ先に銀行に借りに行っていた。
だが、この男には担保になる財産どころか職すら無い。
それに高利貸しにも見限られている。
そんな男にとって、役場は最後の希望だった。
どんな状況でも、役場が許可を出せば、銀行から金を借りられる――
「たとえヘルメス神に口利きされても、お前に許可は出せない」
だがジュリオは、取り付く島も与えず男の要求を拒否した。
役人で一番嫌われるタイプ。
事務的で冷淡を地でいっている。
「こんだけ頭下げてんのに、無理って馬鹿にしてんのか!?」
中年男は、ジュリオに足蹴にされ、怒りを抑えきれず立ち上がった――
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