黄昏にチャイムを鳴らして

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今の私だったら、きっと放送室の扉を開けていただろう。 だって見てみたいじゃない。噂でしか知らない、その部屋の中を。 「ねえ、中で何をしていたの?」って、聞きたいじゃない。 でもまあ、いいか。とにかく、あの鳴り続けていたチャイムは止んだんだし。 でも、あまりに奇妙なので、廊下の角を回った職員室に目をやったが、やはり人影はない。それからもう一度放送室の前に引き返して、中の人をつかまえようとした。 が、まるでオートロックがかかったようにハンドルが回らず、扉はガッチリと閉まって動かなかった。 それから、ひとり家に帰った。かぎっ子で親の帰りは遅く、帰る頃には食欲に頭が支配されていた。親に話す機会を失って、結局その日はチャイムの話を誰にもしていない。 次の日、クラスメイトに同じ体験をした人がいないか確かめようとしたけど、うまくいかなかった。 「誰がチャイムを鳴らし続けたか知らない?」 でも、学校では誰も相手にしてくれない。わけがわからない話だしね。 「変なの?」 変だよね?私もそう思う。 あれから、誰かが「自分がうっかり鳴らしたんだ。」と説明してくれないか待つともなく待っている。もう本当に、ずいぶん長い月日を待ったけど、名乗りを上げる人物は現れそうにない。 結局、放送室の中を見ることは叶っていない。どうしてあの時私は、ハンドルを握った手を離さずに、そのまま扉を開けて中を確かめなかったのか。 何となく「見てはいけなかった」のかな。きっと音を鳴らした主はこんな風に考えていたんじゃないかな、と想像している。 「しまったノリノリで、悦に入っていたところだったのに見つかちゃったよ。でもあれ、何でチャイムを鳴らしてるのがわかっちゃったの?」ってね。 君が望むなら、私はチャイムのこと、黙っているよ。 だから、あなたのために、このことは誰にも話さないでいた。 でも、もう時効だよね。そろそろ、構わないでしょう? だから、書き記す あなたはそちら、私はこちらの人間 私は人間、だから私はこっちの世界で楽しむわ。 もしまた同じ機会があったとしたら、私は何も聞かなかったふりをする。そうして席をさりげなく移動して、近くでこっそりの耳をすますの。あなたが遊んで出す音を、一緒にきく。それくらいいいでしょう? だからあなたもどうぞ思い切り楽しんで。聞かせて頂戴、この素晴らしい世界に響く音を。 紅茶を飲み干して、カップの底に描かれた花柄を見つめた。 ふと、今日の分の薬をまだ飲んでいなかったことに思い至る。私は錠剤を取り出して、グラスの水でそれを流し込んだ。 目の前でご婦人は、美味しそうにミルクティーを飲み干した。 彼女は微笑みながら言う。 「あなたのおっしゃるとおりですね。息子のことは、そっとして様子を見ます。きっと奇妙なことも、じきに大人になったら治るでしょう。見えないものより、悪意ある人間の方がよほど害をなすってものです。」 私は作り笑いを浮かべる。すべては、ご婦人を安心させるために。 部屋は、暖かな光に包まれた。
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